*歌舞伎の2人の子役を巡る、宿命、運命そして人間の意志を描く。
華やかな歌舞伎の世界。しかし芸を極めるには、幼少の頃から相当の修業を積む必要がある。本人も大変だが、親など周りの大人も苦労が絶えない。作者はその事実を、決してイヤ話にせず敬意を持って丁寧に扱っており、関係者の葛藤を、読み応えある人間ドラマとして提示する。
歌舞伎役者の市川萩太郎は、早世した同業者・中村竜胆の遺児、7歳の秋司を後見することになった。萩太郎は、6歳の我が子・俊介より秋司に才能を見る。しかし、秋司の母・由香利の言動はあまりに余裕のないものだった。やがて秋司と俊介は共演することになるが…。
平易だが要を得た、端正な筆致が素晴らしく、登場人物の感情や感傷を丹念に描き出している。とある人物の真情は終盤まで隠しており、それが明かされた後の展開は、本書の白眉である。近藤史恵の新たな代表作。
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