「中学三年の冬、私は人を殺した」。
二十年後の「私」は、忌まわしい事件の動機を振り返る――
熱中した走幅跳びもやめてしまい、退屈な受験勉強の日々。
不機嫌な教師、いきり立つ同級生、何も喋らずに本ばかり読んでいる父。
周囲の空虚さに耐えきれない私は、いつもポケットにナイフを忍ばせていた……。
「殺意」の裏に漂う少年期特有の苛立ちと哀しみを描き、波紋を呼んだ初の長編小説。
一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。
そんな父が、ある夏の終わりに脳の出血のため入院した。
混濁してゆく意識、肺炎の併発、抗生物質の投与、そして在宅看護。病床の父を見守りながら、息子は無数の記憶を掘り起こし、その無名の人生の軌跡を辿る―。
生きて死ぬことの厳粛な営みを、静謐な筆致で描ききった沢木作品の到達点。
≪読書感想≫
「中学三年の冬、私は人を殺した」という衝撃的な一文で始まる『血の味』は、著者が初めて書いた長編小説です。
最後の1割を残して10年間も放置されていたこの小説を書き上げるきっかけになったのは89歳の父の死でした。
父の入院から死までを綴ったノンフィクション・エッセイ『無名』の執筆でその死に向き合ううちに『血の味』の少年がなぜ殺人を犯したのかという根本的な理由に突然著者は気づきます。
こうして2つの作品が完成します。
この父と子の関係に沢木 耕太郎という作家のルーツが見えてきます。
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